2009-01-01から1年間の記事一覧

終戦工作の真相【7】

終戦工作については、既に何回かにわたって、巷間に流布している説への疑問を呈してきたが、先にも取りあげている、J.F.C.フラー『制限戦争指導論』の中に、スチムソンの興味深い述懐が記載されている。なお、スチムソンは太平洋戦争を通じてアメリカ陸軍長…

ABCD包囲網考【18】・まとめ

私事多忙で、こちらのブログもしばらく更新できていなかったが、長らく書いてきたABCD包囲網について、私の考えをまとめてみたい。 ・言葉自体は、太平洋戦争勃発前から使われていた。 尾崎秀実の評論*1やグルーの日記*2にあるように、日本人のみならず、連…

ABCD包囲網考【17】・東條英機の供述

今回は、日米開戦時の首相であった、東條英機の回想を出典にとりたい。東條英機に関しては、回顧録や、日記のようなものは、少なくとも発表されたものとしては存在しないはずだが、東京裁判に際して提出された宣誓供述書が近年出版されている。記述の客観性…

ABCD包囲網考【16】・昭和天皇の回想

歴史家や連合国の政治家の叙述を主にして、ABCD包囲網考を書いてきたが、今回は名目上の開戦責任者であった昭和天皇の回想を取りあげたい。基本的に昭和天皇の日記や手記といったものは、宮内庁が厳重に管理しているため、一般の目が届く範囲に流出すること…

ABCD包囲網考【15】・米戦史家の記述

ABCD包囲網考では、イギリス人の書いたものや所感を取りあげることが多くなっているが、今回はアメリカ人戦史家のサミュエル・エリオット・モリソンの著書を取りあげてみたい。 アメリカが一連の対日経済制裁を行ったという記述の後に、以下のようなくだりが…

ABCD包囲網考【14】・興味深い英国人談話

J.F.C.フラー、リデル・ハート等の英国人は、開戦の責任を必ずしも日本の側だけのものとしておらず、より直接的な引き金は、むしろ連合国側の経済封鎖にあったと述べていたことは過去の日記で既に書いた。 d:id:royalblood:20090609 d:id:royalblood:2009061…

ABCD包囲網考【13】・幣原喜重郎の回想

前日のブログで、フランス領インドシナ進駐に際して、近衛文麿と幣原喜重郎の間で議論があった旨について述べた*1が、今回は、その内容について取りあげたい。 会談の日時は、1941年7月頃のことと思われる。この頃、幣原喜重郎は政権の中枢から離れて在野生…

ABCD包囲網考【12】・フラーの記述

既にフラーの著作では邦訳された『制限戦争指導論』を「ABCD包囲網考」の中でも取りあげているが、彼の著作『The Second World War』は、第二次世界大戦に限定された内容であるため、対日政策について若干詳しく論評している部分がある。邦訳は私の知る限り…

ABCD包囲網考【11】・リデル・ハートの叙述

既に10回に渡り、当事者の断片的な記述や、アメリカの研究者の所見といったものを取りあげてきたが、今回は、このブログでも何度も取りあげているリデル・ハートの『第二次世界大戦』での記述、評価について検討していきたい。なお、筆者は、上村達雄氏訳の…

ABCD包囲網考【10】・米有力研究者の叙述【2】

本日は、ナイ教授の『国際紛争 理論と歴史』に関する検討の続きになる。 アメリカは日本への石油の禁輸措置によって日本の南進を阻止しようとした。「アメリカは日本の首に手綱をかけて,時々締め上げてやる」と,ローズヴェルト大統領は言ったものである。*1 …

ABCD包囲網考【9】・米有力研究者の叙述【1】

今回は、アメリカのジョセフ・S・ナイ氏の太平洋戦争に関する叙述を取りあげたい。ナイ氏はソフトパワー論で有名な、アメリカにおける政治学分野での有力な研究者である。今回参照している『国際紛争 理論と歴史』は、古代から現代に渡る国際紛争の教科書で…

公務員は市民の召使い?

今日、6/4付けのCNN Student Newsのスクリプトを見ていたら、civil servantという表現が出てきた。直訳すると「市民の召使い」となるが、辞書を引いてみると「公務員」という訳だった。日本の公務員も「市民の召使い」であるという自覚を持って欲しいものだ。

ABCD包囲網考【8】・1941年11月頃の英米の予見

ABCD包囲網に関する記述も既に8回目となった。今回もJ.F.C.フラーの『制限戦争指導論』から、関連の記事を紹介する。 11月5日*1、チャーチルはルーズヴェルトに次のような書簡を送った。「日本はいまだ最終的決定を下しておりません。どうも天皇が制止してい…

ABCD包囲網考【7】・英米の共同政策の実態

1941年8月前後の対日政策における、英米の共同姿勢に関しては、J.F.C.フラーが『制限戦争指導論』の中で、簡にして要を得た記述を行っている。今回は、これを出典にとりたい。 1941年8月8日から8月13日に行われた大西洋会談において、チャーチルは次のような…

ABCD包囲網考【6】・グルー大使の日記

既に過去のブログで1941年当時のアメリカ駐日大使ジョセフ・グルーの日記にABCD powersという表現が使われていたということには触れているが、今回は、その件について詳述したい。 今回、紹介するのは、1941年11月29日の日記である。この日の表題は「アメリ…

ABCD包囲網考【5】・オランダとの交渉経過

オランダが対日経済制裁に参加したことは前日取りあげたチャーチルの回顧録のみを見ても明らかだが*1、何故かオランダは日本を経済制裁などしておらず、日本が自主的に取引をしなかっただけであるといったような議論を見かけることがある。例えば以下のよう…

ABCD包囲網考【4】・チャーチルの回顧

以前のブログでも取りあげているが、第二次世界大戦において、ウィンストン・チャーチルは連合国の一国であったイギリスの首相をつとめていた。彼の第二次世界大戦回顧録はノーベル文学者賞を受賞しており、記録文学の傑作とされている。今回は、そのチャー…

ABCD包囲網考【3】・尾崎秀実の論文

前回は、百科事典という二次資料的なものを題材にABCD包囲網について考察したが、今回は、日本人による同時代資料をとりあげようと思う。取り上げるのは、『尾崎秀実時評集』という本に所載されている論文である。尾崎秀実に関しては、過去の日記で既に名前…

ABCD包囲網考【2】・事典類の記述

前日の投稿では明確には書かなかったが、私としては、連合国側の人物の回顧録や戦史を読んだ限りにおいて、連合国側から見た場合、日常的に使われる用語であったかどうかという点についてはどうかと思うが、「ABCD包囲網」は実体としては存在したという考え…

ABCD包囲網考【1】・主な論点

第二次世界大戦前夜の日本の状況を表す言葉にABCD包囲網というものがある。これは、アメリカ(A=America)、イギリス(B=Britain)、中国(C=China)、オランダ(D=Dutch)が、日本と交戦、あるいは経済制裁をしている状況を表したものである。こういった状況が存在…

スパイ・ゾルゲが見た日本【4】・英国の対日政策

現在では、遠因については諸論があるものの、日本に対するイギリス、オランダ、アメリカの経済封鎖が、直接の引き金となり、日本の第二次世界大戦参戦が決まったということはよく知られていると思う。今日では、ドイツ戦に苦しむイギリスが、アメリカの参戦…

スパイ・ゾルゲが見た日本【3】・日本の工業力

現代の日本の科学力、工業力は、トップのアメリカとは大差がついているが、トップグループに入っているということに異論がある人は少ないと思う。これに対して、戦前の日本について語られる時、飛行機に竹槍で戦おうとするような、非常に貧弱な科学力、工業…

スパイ・ゾルゲが見た日本【2】・農業問題と陸軍

現代から見た場合の、戦前の日本軍にに対する評価は、非常に横暴な集団であり、庶民を迫害していたといった感想が、かなり一般に浸透しているように思う。特に典型的な海軍善玉論、陸軍悪玉論において、陸軍が批判されるような傾向が強いと思う。戦中という…

スパイ・ゾルゲが見た日本【1】・天皇制

今回から4回程度の分量で、ゾルゲの見た日本をテーマに書いてみたい。 ゾルゲとは誰かというのは、このブログに興味を持つくらいの方なら御存知の方も多いと思うが、戦前日本でドイツ人の新聞記者として活動していたが、実態はソ連のスパイであったという人…

真珠湾作戦をめぐる論議【1】

今回は、以前の真珠湾作戦に関する日記を引き継いだ内容。 d:id:royalblood:20090427:1240846610 d:id:royalblood:20090428 真珠湾作戦に関しては、アメリカは完全に察知していたが、戦争遂行上、最も重要な空母を待避させた上であえて攻撃させ、アメリカの…

欧州人の見た戦前日本の光景【12】・日本人の気質

コリン・ロスの『日中戦争見聞記』について、今回も合わせ12回に渡って書いてきたが、これをもって一旦終了の予定。 日本人の気質として、抜本的な改革を回避し、その場しのぎの対策に終始するのみというような印象は、日本国民自身の多くが自覚しているとこ…

欧州人の見た戦前日本の光景【11】・中国人と日本人の能力

以前の日記で、コリン・ロスの中国人と日本人の器用さに関する所見を取り上げた。 d:id:royalblood:20090513:1242209409 ロスは、日本人よりも、中国人の方が器用さにおいて上であろうと述べていたが、その他の肉体的能力、知的能力についての論評も行ってい…

欧州人の見た戦前日本の光景【10】・日米関係

今回もコリン・ロス関連の話題。 戦前の日本の対米感情に関しては、鬼畜米英等と称して嫌っていたというような印象が強いように思われるが、これは大日本帝国でも末期のことであって、日露戦争の終戦に米国の仲介を仰いだ件などを見ても、本来は、アメリカと…

欧州人の見た戦前日本の光景【9】・街角の光景

江戸時代を観る歴史観に貧農史観というものがある、江戸時代の農民は総じて貧しかった、幕府の桎梏に置かれていたというような前提をもとに歴史を観る態度のことである。戦前という世界を見るにあたっても、貧しく、統制が多い国家だったということが前提に…

欧州人の見た戦前日本の光景【8】・日本人の好戦性

過去の日記で、戦前の日本人の軍事能力の評価について数回書いた。 d:id:royalblood:20090424:1240572977 d:id:royalblood:20090424:1240576100 d:id:royalblood:20090519:1242727669 戦前において、日本は軍事能力については高く評価されていた傾向があるが…