WWII

終戦工作の真相【7】

終戦工作については、既に何回かにわたって、巷間に流布している説への疑問を呈してきたが、先にも取りあげている、J.F.C.フラー『制限戦争指導論』の中に、スチムソンの興味深い述懐が記載されている。なお、スチムソンは太平洋戦争を通じてアメリカ陸軍長…

ABCD包囲網考【18】・まとめ

私事多忙で、こちらのブログもしばらく更新できていなかったが、長らく書いてきたABCD包囲網について、私の考えをまとめてみたい。 ・言葉自体は、太平洋戦争勃発前から使われていた。 尾崎秀実の評論*1やグルーの日記*2にあるように、日本人のみならず、連…

ABCD包囲網考【17】・東條英機の供述

今回は、日米開戦時の首相であった、東條英機の回想を出典にとりたい。東條英機に関しては、回顧録や、日記のようなものは、少なくとも発表されたものとしては存在しないはずだが、東京裁判に際して提出された宣誓供述書が近年出版されている。記述の客観性…

ABCD包囲網考【16】・昭和天皇の回想

歴史家や連合国の政治家の叙述を主にして、ABCD包囲網考を書いてきたが、今回は名目上の開戦責任者であった昭和天皇の回想を取りあげたい。基本的に昭和天皇の日記や手記といったものは、宮内庁が厳重に管理しているため、一般の目が届く範囲に流出すること…

ABCD包囲網考【15】・米戦史家の記述

ABCD包囲網考では、イギリス人の書いたものや所感を取りあげることが多くなっているが、今回はアメリカ人戦史家のサミュエル・エリオット・モリソンの著書を取りあげてみたい。 アメリカが一連の対日経済制裁を行ったという記述の後に、以下のようなくだりが…

ABCD包囲網考【14】・興味深い英国人談話

J.F.C.フラー、リデル・ハート等の英国人は、開戦の責任を必ずしも日本の側だけのものとしておらず、より直接的な引き金は、むしろ連合国側の経済封鎖にあったと述べていたことは過去の日記で既に書いた。 d:id:royalblood:20090609 d:id:royalblood:2009061…

ABCD包囲網考【13】・幣原喜重郎の回想

前日のブログで、フランス領インドシナ進駐に際して、近衛文麿と幣原喜重郎の間で議論があった旨について述べた*1が、今回は、その内容について取りあげたい。 会談の日時は、1941年7月頃のことと思われる。この頃、幣原喜重郎は政権の中枢から離れて在野生…

ABCD包囲網考【12】・フラーの記述

既にフラーの著作では邦訳された『制限戦争指導論』を「ABCD包囲網考」の中でも取りあげているが、彼の著作『The Second World War』は、第二次世界大戦に限定された内容であるため、対日政策について若干詳しく論評している部分がある。邦訳は私の知る限り…

ABCD包囲網考【11】・リデル・ハートの叙述

既に10回に渡り、当事者の断片的な記述や、アメリカの研究者の所見といったものを取りあげてきたが、今回は、このブログでも何度も取りあげているリデル・ハートの『第二次世界大戦』での記述、評価について検討していきたい。なお、筆者は、上村達雄氏訳の…

ABCD包囲網考【10】・米有力研究者の叙述【2】

本日は、ナイ教授の『国際紛争 理論と歴史』に関する検討の続きになる。 アメリカは日本への石油の禁輸措置によって日本の南進を阻止しようとした。「アメリカは日本の首に手綱をかけて,時々締め上げてやる」と,ローズヴェルト大統領は言ったものである。*1 …

ABCD包囲網考【9】・米有力研究者の叙述【1】

今回は、アメリカのジョセフ・S・ナイ氏の太平洋戦争に関する叙述を取りあげたい。ナイ氏はソフトパワー論で有名な、アメリカにおける政治学分野での有力な研究者である。今回参照している『国際紛争 理論と歴史』は、古代から現代に渡る国際紛争の教科書で…

ABCD包囲網考【8】・1941年11月頃の英米の予見

ABCD包囲網に関する記述も既に8回目となった。今回もJ.F.C.フラーの『制限戦争指導論』から、関連の記事を紹介する。 11月5日*1、チャーチルはルーズヴェルトに次のような書簡を送った。「日本はいまだ最終的決定を下しておりません。どうも天皇が制止してい…

ABCD包囲網考【7】・英米の共同政策の実態

1941年8月前後の対日政策における、英米の共同姿勢に関しては、J.F.C.フラーが『制限戦争指導論』の中で、簡にして要を得た記述を行っている。今回は、これを出典にとりたい。 1941年8月8日から8月13日に行われた大西洋会談において、チャーチルは次のような…

ABCD包囲網考【6】・グルー大使の日記

既に過去のブログで1941年当時のアメリカ駐日大使ジョセフ・グルーの日記にABCD powersという表現が使われていたということには触れているが、今回は、その件について詳述したい。 今回、紹介するのは、1941年11月29日の日記である。この日の表題は「アメリ…

ABCD包囲網考【5】・オランダとの交渉経過

オランダが対日経済制裁に参加したことは前日取りあげたチャーチルの回顧録のみを見ても明らかだが*1、何故かオランダは日本を経済制裁などしておらず、日本が自主的に取引をしなかっただけであるといったような議論を見かけることがある。例えば以下のよう…

ABCD包囲網考【4】・チャーチルの回顧

以前のブログでも取りあげているが、第二次世界大戦において、ウィンストン・チャーチルは連合国の一国であったイギリスの首相をつとめていた。彼の第二次世界大戦回顧録はノーベル文学者賞を受賞しており、記録文学の傑作とされている。今回は、そのチャー…

ABCD包囲網考【3】・尾崎秀実の論文

前回は、百科事典という二次資料的なものを題材にABCD包囲網について考察したが、今回は、日本人による同時代資料をとりあげようと思う。取り上げるのは、『尾崎秀実時評集』という本に所載されている論文である。尾崎秀実に関しては、過去の日記で既に名前…

ABCD包囲網考【2】・事典類の記述

前日の投稿では明確には書かなかったが、私としては、連合国側の人物の回顧録や戦史を読んだ限りにおいて、連合国側から見た場合、日常的に使われる用語であったかどうかという点についてはどうかと思うが、「ABCD包囲網」は実体としては存在したという考え…

ABCD包囲網考【1】・主な論点

第二次世界大戦前夜の日本の状況を表す言葉にABCD包囲網というものがある。これは、アメリカ(A=America)、イギリス(B=Britain)、中国(C=China)、オランダ(D=Dutch)が、日本と交戦、あるいは経済制裁をしている状況を表したものである。こういった状況が存在…

真珠湾作戦をめぐる論議【1】

今回は、以前の真珠湾作戦に関する日記を引き継いだ内容。 d:id:royalblood:20090427:1240846610 d:id:royalblood:20090428 真珠湾作戦に関しては、アメリカは完全に察知していたが、戦争遂行上、最も重要な空母を待避させた上であえて攻撃させ、アメリカの…

終戦工作の真相【6】

「欧州人の見た戦前日本の光景」も、まだネタがあるので続ける予定だが、今日は、「終戦工作の真相」の続きを書くことにする。 太平洋戦争の終戦工作に関しての記事は6回目となるが、最近復刊されたフラーの『制限戦争指導論』にも興味深い記述がある。 天皇…

終戦工作の真相【5】

「終戦工作の真相」は、【4】を以て一旦終了するつもりだったが、別件で『マッカーサー大戦回顧録』をあたっていたら、たまたま日本側の和平工作についての記述が見つかったので、補足として書いておきたい。 私は日本の天皇から、山下ラインを守りきれなか…

終戦工作の真相【4】

数々の終戦の試みが敗れた後の経過は、主な経過は、巷間に知られている通りである。その経緯の叙述に関しては、リデル・ハートの筆によるものが白眉であると思う。主な経過を追ってみたい。 1945年6月、悪化していく戦況の中で、連合国側の無条件降伏要求の…

終戦工作の真相【3】

昭和天皇と終戦について語られる時に良く取り上げられるのが、近衛上奏文問題である。近衛上奏文とは、1945年初頭に、天皇が重臣を個別に呼び出して意見を徴した時に近衛文麿が提出した文書のことである。近衛は、戦争が敗北必至であること、このまま戦争が…

終戦工作の真相【2】

日本の第二次世界大戦に対する、終戦工作に繆斌工作というものがある。これは中国のブローカーを通じた和平工作の話であるが、巷間の本の中では、天皇はこの工作に乗り気でなかったから終戦が遅れた、などという文脈で取り上げられることがある。これについ…

終戦工作の真相【1】

日本の第二次世界大戦の終戦については、色々と説があるものの、基本的には1945年の6月以降に、天皇を意を受けて、工作が始まったものの、遅すぎた、和平に対して消極的過ぎたという論調になることが多いように思う。以前、東條に関する項でも和平に関する異…

日本軍の進撃がオーストラリアに与えた脅威

日本軍の太平洋戦争序盤の快進撃が、西洋人に与えた心理的影響については、既にd:id:royalblood:20090424:1240572977で述べたが、マッカーサーの回顧録の、フィリピン脱出後を回想した部分にも、当時の日本軍の脅威が窺われる。 オーストラリアの各幕僚長の…

真珠湾作戦が戦局に与えた影響

真珠湾作戦は、結果としてアメリカ軍の戦意を高めてしまい、政略的に失敗だったという観点でのみ語られることが多いが、実際にアメリカ軍の作戦にどのような影響を与えていたかといった観点で語られることは少ない。幸いマッカーサーが自伝において、ある程…

日本の特攻に対するアメリカ側の評価

前日は、ドイツ軍の特攻について、取り上げたが、今回は日本の特攻についてのアメリカの調査報告について検討したい。今回、使用する資料は米国戦略爆撃調査団の報告書である。日本の航空戦力に関しての報告書なので、航空部隊による特攻に関する内容のみと…

ドイツ軍の特攻部隊

日本では特攻隊は有名であるが、同時期の他国には例はなかったのだろうか。そういうことを疑問に思っていたのだが、先日とりあげた、グデーリアンの『電撃戦』を読んでいたら、ドイツ軍の終末期に、日本の特攻隊のような組織があったことが確認できた。引用…