ABCD包囲網考【9】・米有力研究者の叙述【1】

今回は、アメリカのジョセフ・S・ナイ氏の太平洋戦争に関する叙述を取りあげたい。ナイ氏はソフトパワー論で有名な、アメリカにおける政治学分野での有力な研究者である。今回参照している『国際紛争 理論と歴史』は、古代から現代に渡る国際紛争の教科書であり、太平洋戦争を取りあげている部分はごく一部に過ぎないが、それだけにコンパクトにまとまった記述となっている。

日本はまず中国を犠牲にして拡張した。中国での野蛮な戦争のために,日本は中国国民党を支持するアメリカと外交上の紛争に陥った。*1

日本の外交政策が中国にとって不利になるものであったため、中国を支持する勢力が強かったアメリカとの対立路線に陥ったということが端的に述べられている。このような見解は、かつて紹介したゾルゲの分析とも合致しており、妥当なものであると考える*2。なお、一方的に中国を支持し、日本と対立するようなアメリカの政策が正しかったものかどうかについては、ジョージ・ケナンや、ジョン・アントワープ・マクマリーのように第二次世界大戦前後の時代を生きたアメリカ人にも疑義を呈する向きもある。こういった意見もいずれ取りあげたいと思う

*1:ジョセフ・S・ナイ・ジュニア 『国際紛争 理論と歴史』 有斐閣 2007年4月10日 P132

*2:d:id:royalblood:20090529