ABCD包囲網考【6】・グルー大使の日記

既に過去のブログで1941年当時のアメリカ駐日大使ジョセフ・グルーの日記にABCD powersという表現が使われていたということには触れているが、今回は、その件について詳述したい。
今回、紹介するのは、1941年11月29日の日記である。この日の表題は「アメリカの十箇条提案が日本に到着*1」というものであり、いわゆるハルノートの手交について主に書いている部分である。

If she wants a political and economic stranglehold on the countries of East Asia and if she pursues her southward advance by force, she will soon be at war with all of the ABCD powers and will unquestionably be defeated and reduced to the status of a third-rate power.*2

この文中のsheとは日本を指している。内容としては、「もし、日本が、東アジアの国への政治的、経済的な抑圧を欲し、また、南方への優位性を軍隊によって追求するならば、日本はすぐにABCD諸国(ABCD powers)と戦争になり、そして、疑問の余地無く敗北し、三等国に転落するであろう」というものである。ここでは、グルーはABCD諸国を一種の運命共同体として扱っていたことは一見して明らかである。
なお、本旨からは外れるが、グルーは、この日の日記で、ハルノートを受諾した場合は日本は欲するものを平和的に取得できるであろうとも述べている。

*1:THE AMERICAN TEN-POINT OFFER REACHES JAPAN

*2:Joseph C. Grew 『Ten Years In Japan』 Hesperides 2006年11月12日 P417