スパイ・ゾルゲが見た日本【3】・日本の工業力

現代の日本の科学力、工業力は、トップのアメリカとは大差がついているが、トップグループに入っているということに異論がある人は少ないと思う。これに対して、戦前の日本について語られる時、飛行機に竹槍で戦おうとするような、非常に貧弱な科学力、工業力であったというような観点、前提で語られることが多いように思う。こういった見解に相対するものとして、ゾルゲの見た日本の工業力を取り上げたい。
これは、ドイツの『地政学雑誌』1937年1-3月号に「日本の農業問題」という題で発表された論文の一部である。

今日すでに純農業国、いな主農業国でさえなくなっている。日本はすでに世界の八大工業国のグループに属している。木綿の輸出、人絹の生産と輸出では世界第一位である*1

日本は、当時すでに、世界の八大工業国に挙げられるほど工業化が進んでおり、軽工業分野の輸出では、世界トップになっているものすらあったとしているのである。また、同論文で電気工業、重工業および機械工業が著しく進歩しているという点についても述べている。
筆者としては、戦前は、科学力、工業力についてトップとは大差であったが、トップグループに入っているという点では、1970年代くらいの日本と同程度であったと考える。外圧による産業の制限が少なかった分、むしろ総合力では、戦前の方が国家間の相対的な工業力という点では上回っている面もあったかもしれない。戦前、戦車や飛行機、艦船といった不可欠な武装を、全て自前で生産できる国家は非常に限られており、日本は、そういったことが可能な数少ない国家の一つであったのは間違いない。

*1:みすず書房編集部 『ゾルゲの見た日本』 みすず書房 2003年6月2日 P46