欧州人の見た戦前日本の光景【12】・日本人の気質

コリン・ロスの『日中戦争見聞記』について、今回も合わせ12回に渡って書いてきたが、これをもって一旦終了の予定。
日本人の気質として、抜本的な改革を回避し、その場しのぎの対策に終始するのみというような印象は、日本国民自身の多くが自覚しているところであると思う。このような気質は先天的なものなのか、環境によるものなのかというのは、判断しがたいが、戦前の外国人からも、このような印象を持たれていたということが、ロスの記述からわかる。

日本の経済危機の本来の理由は、日本人がもろもろの根本的決意、決定を、最後の瞬間まで回避していることである。日本人は当座の間に合わせに終始する民族である。*1

日中戦争の情勢下で日本が経済危機に陥っている中での、日本人に対する批評である。この批判を現状の日本人にあてはめても全く不自然なところがないのではないだろうか。
しかし、この頃のロスは以下のようにも述べている。

もはやどうにもできなくなると、日本人は自助の精神を発揮し、すみやかに、しかも巧みに行動する。これまで日本人は静観するという政策で成功してきた。おそらく彼らは「支那事変」が日本に及ばした経済危…機をこの政策で乗り切ることであろう。*2

こちらでは、日本人は、どん詰まりの危機に陥ると事態収拾に力を発揮すると述べている。逆にいうと、そこまで行かない限り、当座の間に合わせに終始するということであろうが。おそらく、明治維新のような日本人にとっての成功例が念頭にあって、このような考えを抱いていたのであろうが、ロスが書いた当時に日本が直面していた危機は、残念ながら、「すみやかに」、「巧みに」回避されることはなかった。
しかし、戦後の目覚ましい復興や、オイルショックへの対応などを考えると、逆境が最大レベルに達した時、力が発揮されるというような特性が日本人にあるということは一面の真理ではあると思う。

*1:コリン・ロス 『日中戦争見聞記』 講談社学術文庫 2005年12月1日 P62

*2:コリン・ロス 『日中戦争見聞記』 講談社学術文庫 2005年12月1日 P62