欧州人の見た戦前日本の光景【5】・満州国

今回もコリン・ロス関連で、満州国について取り上げたい。満州国というのは、満州*1清帝国を樹立した満州族の故地であったために、清帝国の最後の皇帝、溥儀を擁立して、日本の後援の元に、現在の中国東北部に樹立された国家であった。日本が、このような国家を擁立、支援するに至った理由は、この地方は、日清戦争日露戦争を経て、国際条約の下に権益*2を保持しており、日本の経済や地政学的な要因に死活的な重要性を持っていたにも関わらず、権益が日本から見て不当に奪われそうになるという危惧を抱いたのが大きな理由であった。満州国は、五族協和の理想を掲げて建国された国家だったが、現在では一般的には日本の侵略政策の一環だった面を重視して語られることが多い。
友好国の外国人旅行者であった、ロスは、満州国に対してどのような見方をしていたのか、ここで紹介したい。

それに「満州国」では太古からの歴史をもちながらも、今なおみずみずしい大地の上に、五つの民族の協和によるまったく新しい世界が生まれようとしているのだ。ここはアメリカを、それも今日の合衆国にはもはや見られないパイオニア時代のアメリカ、「辺境*3」のアメリカを想起させる。そうだ、ここには爽快大胆な精神がいまだに活動できる土地、辺境が見受けられる。*4

ここでは、五民族調和を図った、全く新しい理想国家、古き良き時代のアメリカを思わせるような雰囲気があったと述べられているのである。少なくとも、ロスは五族協和の名目に合わせるような、実験的な努力が行われていることを感じていたと捉えられるのではないだろうか。
また、以下のような予測をロスは述べている。

しかしいずれは他の国々も、既成事実を認めなければならないであろう。西欧の民主主義国家も、今日でも依然として「満州国」を日本の恩恵によってできた偲偏国家としているアメリカも同断である。*5

後知恵では、このような見解は全く外れだった、誤断だったとする意見もあるかもしれない。しかし、連合国側の同時代人でも、ジョージ・ケナンやジョン・アントワープ・マクマリーなど、満州における日本側の権益にある程度理解を示すような立場の意見も少なくない。日本の外交政策が穏当なものであったら、史実のような結末は避けられた可能性も、かなりあったと思う。

*1:現在の中国東北地方

*2:満州鉄道の敷設権や駐兵権

*3:原文に「フロンティア」とルビ有り

*4:コリン・ロス 『日中戦争見聞記』 講談社学術文庫 2005年12月1日 P112

*5:コリン・ロス 『日中戦争見聞記』 講談社学術文庫 2005年12月1日 P113