無条件降伏要求についての同時代人所見【2】

前回に引き続き連合国側の主要人物の回顧録から無条件降伏要求に関する所見を確認してみることにする。今回は第二次世界大戦中の大部分において英国首相をつとめたウィンストン・チャーチル回顧録を取り上げることにする。
以下の引用文は対日戦における最終的な局面における、米国大統領トルーマンチャーチルの会談についての記述である。

大統領と二人だけの、あるいは彼の側近の居合わせるなかでの何回かの長い話合いのなかで、私は何をなすべきかを論じた。*1

トルーマン大統領との何回かに渡る話し合いの中で、対日無条件降伏要求に関して論じたとしている。

もしわれわれが日本に「無条件降服」を強制するならぽ、アメリカ側の人命の、それより小さいながらもイギリス側の人命の莫大な犠牲を払わねぽならないということを、私は特に強調した。*2

日本に無条件降伏要求を強制した場合、おそらく上陸作戦に伴う損害のことであろうが、英米の損失も多大なものになるであるから再考すべきではないかと述べたようである。

われわれが将来の平和と安全のためのすべての必須条件を獲得し、しかも、彼らが征服者にとって必要なあらゆる保障に応じた後は、彼らの軍事的名誉を救うというなんらかの約束と、彼らの民族的存続を認めるというなんらかの確証を与えるというような、別のやり方でこのことを表明し得ないかどうか、それを彼は考えるべきだといったのである。大統領は、真珠湾以後日本が軍事的名誉を持っていると考えてはいないと、あっさり答えた。*3

この節は、天皇制の存続を念頭に入れていたと思われるが、連合国側にとっての必須条件を日本に認めさせた上で、日本の軍事的名誉を救いかつ、民族的存続を保証することで、早期講和をするべきではないかというチャーチルの提案を、トルーマン大統領は「真珠湾以後日本が軍事的名誉を持っていると考えてはいない」という一言であっさり拒絶したことがわかる。こういったアメリカ側の感情は真珠湾作戦愚行論の論拠にもなろうが、他の史料も検討すると、この時、連合国側がチャーチルが述べたような条件緩和を行っていれば、日本側は応じた可能性が高いと思われる。アメリカ自身も人員の損耗とそれに伴う国民の批判は気にしていたようではあるが、いずれにせよ、この結論に伴って原爆投下が現実のプランとなっていったのである。

結局、日本軍の即時無条件降服を要求する最後通牒を送ることが決定された。この文書は七月二十六日に公表された。その条件は日本の軍首脳部によって拒否された。そこでアメリカ空軍は原子爆弾を広島に一個、長崎に一個投下する計画を立てた。*4

蛇足になるが、今回引用した箇所は、非常に文学的に思える。私は翻訳しか持っていないが、この本は随所に美しく感じる文章が散りばめられており、原著のノーカット版がノーベル文学賞を取ったというのも頷けるものがある。引用していない箇所を含め、実際に読んで頂きたい箇所ではある。
原爆投下については、また触れる機会があると思う。

*1:W・S・チャーチル 『第二次世界大戦4』 河出文庫 2007年6月30日 P435

*2:W・S・チャーチル 『第二次世界大戦4』 河出文庫 2007年6月30日 P435

*3:W・S・チャーチル 『第二次世界大戦4』 河出文庫 2007年6月30日 P435

*4:W・S・チャーチル 『第二次世界大戦4』 河出文庫 2007年6月30日 P435-436