アメリカの日本外交暗号解読

太平洋戦争開戦前に、アメリカは日本の外交暗号を破っており、内容が筒抜けだったという話がある。話としては知っていても、情報源は知られていない方が多いのではないかと思うが、これについても、ハル国務長官回顧録に詳細が載っている。1941年5月7日、戦争回避のための日米交渉を日本政府が行っていた時に、当時の日本側外相の松岡洋右からの電報の受け取りを断ったことについて、こう述べている。

実はその電報の内容をわれわれは知っていた。それは松岡から私にあてた声明で、独伊の指導者は勝利を確信しており、米国の参戦は戦争を長びかせ文明の破壊をもたらすだけであり、日本は同盟国の立場を危うくするようなことは出来ない、という文面であった。われわれがこれを知っていたのは、陸海軍の暗号専門家が驚くべき手腕を見せて日本の暗号を解き、東京からワシントンその他の首都に送られる日本政府の通信を解読したうえ、翻訳して国務省に送りとどけていたからである。*1

野村大使からの電報受け取りは断ったが、暗号を解読していたので、その内容については知っていたとしているのだ。

この解読情報は「魔術」という名前がついていたもので、交渉の初めのうちは大して役に立たなかったが、最後の段階では大きな役割を演じた。これによってわれわれは、日本の外務大臣が野村その他の代表に送っている訓令の多くを知ることが出来、野村が私との会談について東京に送っている報告も知ることが出来た。*2

魔術と呼ばれていた解読技術で開戦に至るまでの日本の外交暗号は、ことごとくアメリカ政府によって解読されてしまっていたということが読みとれる。近年では、第三国の通信によって、日本もある程度アメリカの外交態度を察知していたという説もあるが、アメリカが日本の外交暗号の解読に成功していたというのは、当時のアメリカ要人の回顧録に堂々と書かれている内容なのである。

*1:コーデル・ハル 『ハル回顧録』 中公文庫 2001年10月25日 P171-172

*2:コーデル・ハル 『ハル回顧録』 中公文庫 2001年10月25日 P172